2019年5月27日月曜日

「アクセス抑止方策に係る検討の論点」に対する意見

【意見の趣旨】

[論点1、論点3について]

アクセス抑止方策について、関係者の共通認識のもと幅広いユーザーの声に耳を傾け議論を進めることに賛成である。


[論点5について]

「アクセス警告方式」の実施の前提について議論することに賛成だが、その方式が、問題となっているいわゆる海賊版サイトへのアクセスを抑制する目的を達成する手段として妥当か否かという前提についても、議論するべきであると考える。
「アクセス警告方式」は、海賊版サイトへのアクセスを抑制する目的を達成する手段としては妥当とは言い難い。なぜなら、海賊版サイトの種類によっては用いること自体困難で、著作権についての啓蒙効果もさほど期待できないからである。



【意見の詳細】

[論点1、論点3ついて]

業界関係者としての漫画家・クリエイターはもちろんのこと、インターネットに関わるユーザーを対象に、幅広くヒアリングをすることは必要である。
今日のインターネットは、情報インフラとしての性格を持ち多くの市民の生活の一部である。したがって、市民への影響を考えた上でアクセス抑止方策を設計するべきである。


[論点5について]

「アクセス警告方式」の実施の前提について議論するべきである。それは、違憲性の有無を今一度確認すること、また、海賊版サイトへのアクセスを抑制するという目的を達成する手段が、「アクセス警告方式」でなければならない必然性について議論することを含めてである。
この度の「アクセス警告方式」は、ISPとの約款にその方式を用いる同意の許諾を記載することで、個々のユーザーごとに個別に同意を得ることにより、ユーザーとの「真性の同意」が成立するとのことだが、そう断言するのは可能だろうか。
上に述べたように、インターネットは今日では情報インフラとしての性格を持つ。それは、IoT技術やウェアラブル端末の開発が進む今日において、インターネットなしに市民の生活を成り立たせるのは困難さを伴うということである。市民は、逃れようなくISPに関わらざるを得ない状況があるのだから、約款への同意といっても、約款に同意する以外に選択肢がない点では止むを得ずに選択した不本意な同意を含む状況がある。致し方なく不本意に同意せざるを得ないならば、半ば強制的な同意で強要に近いわけで、これが「真性の同意」として成り立つかといえば疑問が残る。したがって、違憲の可能性は払拭できない。
そのように、通信の秘密を侵す違憲の可能性を払拭できないにもかかわらず、「アクセス警告方式」を採用する利益は、さほどではないのではないかという疑いがある。
近年ではYouTubeで漫画海賊版が配信されている(漫画のページそのもので、物語丸ごとを順番に静止画の映像として配信する内容で、引用とは異なる。この動画「進撃の巨人117ー日本語版|Attack On Titan 117 Full JP」(https://www.youtube.com/watch?v=D4eE5LxUqv8)のような例)が、短期間配信し儲けを出しては、動画やアカウントを消すといった状態となっている。こうした種類の漫画海賊版サイトに対しては、アクセス警告方式は用いること自体が困難だと考える。
まず、ユーザーがYouTubeのこのアカウントにアクセスしようとした時や、まして、YouTubeのトップページにアクセスしようとした時に、アクセス警告のアラートを出すなどということは、現実的には実現し難いだろう。また、短期間の配信のため、悪質な海賊版サイトとして選定するのにかける時間より先に、サイトが消滅するのではないかという疑いもある。
したがって、このような種類の海賊版サイトに「アクセス警告方式」を用いるのは困難であろうし、この方式を有効に用いることができるかについては、議論の余地がある。
それよりは、現状のYouTubeの規約で、YouTubeの配信動画に海賊版の動画を発見したとしても、著作権者や代理人でなければ著作権侵害として報告できないことにより、海賊版サイトが放置されるのだから、それについて方策を講じる方がはるかにスムースだろう。例えば、著作権者に報告するための窓口を、YouTubeか出版社かのどちらかに設置するなどの手段の方が、現実的ではないだろうか。
そして、「アクセス警告方式」による啓蒙効果だが、資料(総務省から公開された資料の「別紙1」)で示されるアラートで、ユーザーが即座に著作権を重んじるようになり、海賊版サイトの利用について罪悪感を抱くようになるというのは、いささか安直ではないかとも考える。
それよりは、例えば、デザイン・クリエイティブ業界向けの雑誌や書籍のように、海賊版サイトユーザーの中心層が読む漫画雑誌等に著作権についてテーマにした連載や特集を設け、上記のアラートのように数行のコメントに終わらすことなく、数ページを割いて解説をすることを繰り返すという情報伝達の方が学習効果があるのではないか。さらに言えば、学校教育の中で、著作権について扱うことが学習効果があり啓蒙につながるのではないか。
以上から、「アクセス警告方式」は、違憲の可能性が残る反面、場合によっては用いるのが困難で啓蒙効果もさほども期待できないし、他の手段を検討する方が現実的で望ましいといえる。したがって、「アクセス警告方式」は、海賊版サイトへのアクセスを抑制する手段としては妥当とはいえず、必ずしも「アクセス警告方式」をその手段として用いることに固執する必要はないのであって、他に効果が期待できる手段を模索するべきであるといえる。

以上


女子現代メディア文化研究会代表
山田久美子