2018年3月19日月曜日

「迷惑防止条例」改正案に反対する意見書


【はじめに】

本年2月21日からの東京都議会定例会に、警視庁から、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(以下「迷惑防止条例」)改正案が提出されました。この条例案は3月22日採決、3月末の本会議で成立の見通しとなっています。
この度の「迷惑防止条例」改正案においては、つきまとい行為における「行為類型」の追加や、つきまとい行為における罰則の強化が含まれております。これらには、表現の自由に関わり民主主義の根幹を揺るがしかねない内容も含まれており、看過しがたいと考えます。
「迷惑防止条例」を作成した目的は、本来、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もつて都民生活の平穏を保持すること」(第1条)です。この度の「迷惑防止条例」改正案は、そうした目的から逸脱した内容となっているのではないかという危惧があります。
つきましては、この度の「迷惑防止条例」改正案に反対し、意見を述べさせていただきたく存じます。



【意見趣旨】

以下に述べる意見から、この度の「迷惑防止条例」改正案について、廃案を求める。

[ 意見1 ]
「条例案の概要」(※1)、「3 つきまとい行為等の行為類型の追加(第5条の2)」の、「(1) 規制対象となる行為類型の追加」おいて、内、「名誉を害する事項を告げること」は、追加の必要なし。

[ 意見2 ]
「条例案の概要」、「3 つきまとい行為等の行為類型の追加(第5条の2)」の、「(1) 規制対象となる行為類型の追加」おいて、内、「性的羞恥心を害する事項を告げること」は、追加の必要なし。

[ 意見3 ]
「条例案の概要」、「3 つきまとい行為等の行為類型の追加(第5条の2)」の、「(2)行為類型の一部追加」おいて、内、現行の1号の規定に加え、「みだりにうろつくこと」は、追加の必要なし。

[ 意見4 ]
「条例案の概要」、「3 つきまとい行為等の行為類型の追加(第5条の2)」の、「(2) 行為類型の一部追加」おいて、内、現行の3号(連続電話等)の規定に加え、「SNS等への連続送信」は、追加の必要なし。

[ 意見5 ]
「罰則(第8条関係)」は慎重な検証が必要。



【意見趣旨の理由】

[(1)について]
「名誉を害する事項を告げること」は刑法上の「名誉毀損罪」での取り締まりが充分可能であり、あえて「迷惑防止条例」の取り締まり対象に加える必要がないからです。
また、「名誉毀損罪」は親告罪で告訴がなければ処罰ができない一方で、「迷惑防止条例」は非親告罪であり、捜査機関の判断で逮捕や処罰が可能となります。「名誉を害する」とする事柄について恣意的な解釈が可能であり、条例の運用によっては濫用につながる恐れがあることも理由です。

[(2)について]
迷惑防止条例が非親告罪であるという中で、「性的羞恥心を害する事項」という文言については主観性に頼らざるを得ず、捜査機関の主観的かつ一方的な解釈が可能であり、条例の運用によっては濫用につながる恐れがあるからです。

[(3)について]
「みだりにうろつく」という曖昧な文言の捜査機関による恣意的な判断により、議員の方の選挙に関わる活動やビラ配りをはじめとし、政治に関わるあらゆる活動、デモ等が、取り締まり対象とされる恐れがあるからです。

[(4)について]
SNSの場合、例えばツイッターに連続投稿をした内容について、第5条の2で禁止される「正当な理由なく、専ら、特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的」での行為に何が該当するのか判断するのは捜査機関であり、条例の恣意的な運用が可能になるからです。
また、不特定多数の対象に向かってSNSで発信する行為と、特定の人物に対し(拒まれたにも関わらず)連続電話を行うという行為は、コミュニケーションの質的な隔たりがあり、迷惑防止条例上の同列の迷惑行為として扱うことに、甚だ疑問が残ります。

[(5)について]
罪に対し適切な罰則であるか否かの検証は必要である一方、罰則を強めることによって必ずしも犯罪が減少することにはならないわけで、罰則の強化については識者を交えた慎重な検証や議論が必要で、拙速な判断は避けるべきだからです。



【  結 論  】

このように、この度の「迷惑防止条例」改正案につきましては、表現の自由に関わる内容が含まれており、しかも、「名誉毀損罪」と同様の内容を含みながら、刑法上の「名誉毀損罪」では親告罪、他方の「迷惑防止条例」では非親告罪といった、制度的に大きな誤謬を含みます。
まして、選挙や政治活動に関わる活動について、捜査権の濫用によって不当に規制がなされる恐れがあっては、我が国の先人達が歴史を重ねてせっかく得て来た民主主義にとっても脅威となります。
念のため言えば、3月19日現在、この度の「迷惑防止条例」改正案は、警視庁のWebサイトにて「条例案の概要」のみが拝見できるだけで、完全に条文化された改正案として公開がされているわけでもありません。都民によって条文の厳密な文言の確認ができる状態にもなく、それにもかかわらず3月末の条例成立を目指しているとなれば、本来必要であったはずの都民による条例の理解・議論が充分にできているとは言いがたく、あまりに拙速と判断せざるを得ません。
したがって、表現の自由の観点、また、民主主義の健全な発展を願う立場から、この度の「迷惑防止条例」改正案につきましては、廃案としていただきたく存じます。


以上

女子現代メディア文化研究会
代表 山田久美子



[注]
※1:「条例案の概要」(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/higai/meibou_comment.files/meibou_an.pdf)
 
・「「迷惑防止条例」改正案に反対する意見書 」(PDF版256kb)

※誤字修正しました。失礼いたしました。
「意見の理由」の「(5)について」中、「検証や議論を」→「検証や議論が」(3月28日)
 末尾文責部分「山田久美子以上」→「山田久美子(3月28日)