2013年9月15日日曜日

「児童ポルノ禁止法」改正案について修正を求める意見書

女子現代メディア文化研究会は、継続審議の運びとなった「児童ポルノ禁止法」改正案につきまして修正を求めます。

【はじめに】

「児童ポルノ禁止法」(正式名称「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」)改正案(以下、本改正案)について、私どもは修正を求めます。なぜなら、実際には子どもを守れない改正案となっていると考えるからです。
私どもは「児童ポルノ禁止法」第一条の「児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ」「児童の権利を擁護する」という目的は正しいと考えます。しかしながら本改正案は、名ばかりの児童の権利擁護の法案となっているのではないかと危惧します。少なくとも「児童ポルノ禁止法」は、アニメーションや漫画等の創作物を取り締まることを立法趣旨としていません。立法趣旨は、実際の被害児童の保護・救済です。こうした「児童ポルノ禁止法」の立法趣旨を混同して、架空の世界の取り締まりに力をそそごうとし、保護・救済が必要な実在の児童が置き去りにならないよう求めます。
 
【意見趣旨】 

(1)「児童ポルノ」という文言について。
「児童ポルノ」という文言を「児童性虐待記録物」に改めることを求めます。

(2)除外規定について。
「児童ポルノ」について除外規定を設けることを求めます。すなわち、学術研究、報道に必要性が認められる実写の記録物、および創作物全般(漫画、アニメーション、コンピュータゲーム、イラストレーション、グラフィック等のデザイン、絵画、彫刻、インスタレーション等)は「児童ポルノ」としての取り締まり対象から除外する旨の条文を付け加えることを求めます。

(3)第六条の二、第七条について。
「児童ポルノ」の定義が現状のように曖昧なままで単純所持を禁止することに反対します。

(4)附則について。
第二条2の削除を求めます。また、第二条2の削除に伴い第二条すべての削除を求めます。
 
【意見の理由】

(1)の理由
「児童ポルノ」という文言が曖昧なので混乱を生んでいると考えるからです。「児童ポルノ」を「児童性虐待記録物」と改めれば、製造過程に児童への権利侵害が含まれる記録物が取り締まり対象であることを明確に示すことができます。

(2)の理由
「児童ポルノ禁止法」第一条に従えば、「児童ポルノ」は製造過程に実在の児童への実際の人権侵害を伴う内容の記録物であり、漫画、アニメーション、コンピュータゲーム等の架空の世界を描いた創作物は「児童ポルノ」と混同するべきではないからです。
また創作物への過剰な規制は、結果として、表現者としての女性の自由を奪うことになると考えます。特に漫画やアニメーションについては、規制によって、描くことが許諾される表現の範囲が限定されていくことを危惧します。
日本の創作物にかかわるクリエイターの業界は、男女雇用機会均等法施行以前から女性が活躍できる場でした。
こうした場が衰退せず、次世代へ発展的に継承されることを求めます。

(3)の理由
「児童ポルノ」の定義が曖昧なまま単純所持を禁止すれば、処罰範囲が不当に拡大したり、恣意的な逮捕・捜査、冤罪の危険が高まると考えるからです。
まず、「児童ポルノ」は製造過程に児童への権利侵害が含まれる記録物に限定するべきなのは、既に述べた通りです。それ以外(例えば家族の思い出の記録として所持する幼児期の入浴写真)は犯罪性がある「児童ポルノ」と区別するべきです。
また、パソコンの所持者の意思とは関係なく勝手に「児童ポルノ」を保存するコンピュータウイルス「MELLPON」の存在が確認されております。こうした種類のウイルスに感染して「児童ポルノ」を所持した場合は罪に問うべきではありません。しかし、こうしたケースでの「児童ポルノ」の単純所持を本改正案において犯罪性のあるケースと確実に区別できるかは疑問です。「みずからの性的好奇心を満たす目的」という主観的要件は、現在の刑事訴訟法下では、捜査機関による自白の強要を招くか、さもなければ事実上安易に認定されて犯罪性のある所持の区別には役立たない結果となる可能性の強いものです。

(4)の理由
第2項は必要がないと考えるからです。第2項では、改正案施行後三年を目途とし「必要な措置」を講ずることとなっています。しかし現状でブロッキングは既に行われており、「必要な措置」としての三年後からの規制の必要性はありません。また、ここでいう「必要な措置」としての規制は内容に具体性を欠く部分もあります。そもそも、規制は原則として民間の自主規制とするべきであり、規制の内容が明白ではないうちに必要性を認めることはできません。
そして、第1項の調査研究がこのような第2項における三年後からの規制を前提としているならば、第1項の必要性もまた認められません。したがって、附則第二条全体が必要ありません。

以 上

女子現代メディア文化研究会共同代表
山田久美子

・PDF「「児童ポルノ禁止法」改正案について修正を求める意見書」(232kb)