2019年4月2日火曜日

「児童売買、児童搾取および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書の履行におけるガイドライン案」に対する意見


【意見趣旨】


[意見の趣旨1]
61項について。「児童売買、児童搾取および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書」第2条(C)の定義を拡大し、「児童ポルノ」に素描や漫画による架空の児童の表現を含めることに反対します。
62 項について。法律で禁止する「児童への性的虐待素材」に非実在児童の表現を含めることに反対します。

[意見の趣旨2]
102 項について。性的被害を受けた実在の子どもたちを保護し援助する枠組み作りに賛成です。 そしてこの枠組みは、個人だけでなく、商業、政府、そして非政府組織によるあらゆる搾取から子どもを守らなければなりません。



【意見の理由】

[意見の趣旨1の理由]
( A)素描や漫画、その他で表現された架空の児童・非実在児童に対する性的虐待は、現実の人権侵害ではなく、児童の権利擁護としての意味がないからです。
( B)現在の日本の漫画には性的虐待やレイプを含む表現がありますが、それらは作家による想像の産物であり、実際に児童への性的虐待を行ってその行為を記録するようなとは違法です。漫画は架空の表現であるからこそ現実の児童の性的虐待を考える材料として用いることも可能です。こうした作品の禁止は、市民の考える機会を奪うものです。

[意見の趣旨2の理由]
(A)児童への性的虐待が随所で発生していることは確かであり、実在する被害児童の保護・救済は喫緊の課題だからです。そしてその加害者は、個人のみならずNGOや国連事業であることすらありえます。
( B)漫画等の架空の児童への性的虐待の取り締まりに尽力し、本来、保護・救済されるべき実在する児童を放置しないよう求めるからです。



【 背 景 】

[意見の趣旨1について]
私どもは、児童の権利擁護については大いに賛同します。しかしながら、「児童ポルノ」の定義に架空の児童の表現を含めること、法律で禁止する「児童への性的虐待素材」に非実在児童の表現を含めることについては反対します。
なぜなら、架空の児童・非実在児童には人権がなく、児童の権利擁護としての意味がないからです。
日本の漫画には、架空の児童・非実在児童への性的虐待やレイプの表現を含む作品があります。その中には、性的虐待の問題を考える上でのテクストとしての価値も持つ作品が含まれ、「風と木の詩」(竹宮惠子・作)、「BANANAFISH」(吉田秋生・作)等が該当します。「BANANA FISH」は昨年アニメーション化もされています。主人公の少年が「児童ポルノ」のビデオに出演している描写がありますが、その過去に苦しみながらも生きようとするという物語です。こうした作品が絶版となれば、児童が性的虐待の問題について考える機会を奪われることにもなり、「児童の権利に関する条約」において締結国に奨励している「児童が多様な情報源からの情報及び資料を利用し得ることを確保する」という条文にも反します。

[意見の趣旨2について]
児童の性的虐待被害が世界の多数の国で発生することは疑いがありません。しかし、その加害主体が常に分かりやすい悪人とは限られず、A/71/818 文書(http: //undocs. org/A/71/818)で示されるように、例えば国連職員が加害者であることすらありえます。
国連職員が加害の主体となる児童への性的虐待は、国連職員が立場を利用し、児童の弱い立場につけこんでいる点で、構造的な問題を含みます。権力者からの被害児童の保護という観点は重要であり、いかなる立場の人物からの性的虐待であっても被害児童が救済される相談窓口を早急に設け、たとえ加害者が政府要因や国連職員であっても児童の救済につなげられる枠組み作りを行う必要があります。
漫画等における架空の児童への性的虐待の取り締まりに尽力することの問題点は、そうした本来守るべき被害児童が放置され、本来救済されるべき実在する児童のために充てられるはずだった労力が奪われることでもあります。



【 結 論 】

この度のガイドライン草案における「児童ポルノ」の定義の拡大は、児童の権利擁護にとって意味がないばかりか、児童から失われる利益が大きく、児童の権利擁護の手段として妥当ではありません。そして、今や権威ある人々による児童への性的虐待こそが看過できない状況となっており、漫画等の架空の表現に責任を転嫁することなく、現実の人権侵害に向き合う必要があります。
どういった対象であれ、権利の保障を行う際には、その目的を達成する手段は確実な効果が見込まれ、なおかつ、それぞれの国の実情に適っていなければ意味がありません。
日本の、とりわけ漫画等の創作物については、しばしば「権利の保障」を目的とした、手段としては妥当とはいえない不当な規制を求められています(※補足資料)。しかし、日本の実情に合わせ不当な規制を行わないことこそが、我が国の児童の権利擁護につながると、私どもは考えております。


以上
女子現代メディア文化研究会代表 デザイナー・アートディレクター
山田久美子




[※補足資料]

「~国連女子差別撤廃委員会、「日本における女性の権利」保障~議題「性的暴力を描写したビデオや漫画の販売の禁止」についての意見書」
http://wmc-jpn.blogspot.com/2016/02/blog-post.html

※国連子どもの権利委員会に提出したパブリックコメントにはリンク先意見書の本文を掲載しましたが、当サイトでは同じ意見書を繰り返し掲載することとなりますので、ここでは割愛しURLのみ掲載いたします。



「児童売買、児童搾取および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書の履行におけるガイドライン案」に対する意見(PDF版279KB)