2018年10月30日火曜日

静止画のダウンロード違法化に反対する声明


【はじめに】

本日10月30日に、文化庁が、インターネット上の静止画のダウンロードを違法化する著作権法改正のための検討を始めたとの報道がありました(※注1)。来月にも具体的な制度設計に入る予定とのことです。
この「静止画のダウンロード違法化」については、漫画海賊版サイトのブロッキング問題を扱う政府の会議においても、検討事項として掲げられて来ました(※注2)。
女子現代メディア文化研究会(以下「当会」)代表の山田は、現役のデザイナー、アートディレクターです。そうしたクリエイティブの現場に立つ者としても、この「静止画のダウンロード違法化」には予てより疑問を持っており、この度は、反対声明を発表させていただく運びといたしました。


【漫画海賊版サイトへの対策を巡る会議の経過について】

漫画海賊版サイトへの対策を巡っては、政府において会議が継続しております。対策案としてブロッキングを含むという本年4月の報道以降(※注3)は特に注視しておりますが、内容は法治国家の体を揺るがしかねない杜撰の極みとなっております。内閣府の会議では、委員の法律家等から非常に丁寧で解りやすい資料が、せっかく提出されているにもかかわらず、違法性阻却事由としての「緊急避難」を成立させる要件についての理解が進まないまま、一部の委員が感覚的な判断により結論を急ごうとしております。
本年10月には、日本の弁護士が漫画海賊版サイトの運営者を特定するということも実現しております。ブロッキングの他に実効的な手段が存在しないか事実上困難であるかどうかの検証対象としては、適していると考えて妥当でありそうなものですが、政府の会議の傍聴人からは、こうした取り組みが見過ごされたままであるとの証言も得ています。



【意見趣旨】

こうした政府の会議に付随し始まったとされる「静止画のダウンロード違法化」の検討なのだから、文化庁の会議もまた、立法を検討する会議であるにもかかわらず、感覚的な判断により結論を急ぐこととなりかねない。そうした面もふまえ、静止画のダウンロード違法化に反対する。


【意見の理由】

「海賊版だと知りながら」(静止画を)ダウンロードしたということの証明が可能であるかについても疑問がある中で、企画書や商品カンプ制作の際、業務上止むを得ず、インターネット上の画像をダウンロードし収集せざるを得ないシーンは、デザイン業を始めとしクリエイティブ業界においては尽きない現状となっており、「静止画のダウンロード違法化」となればクリエイティブ業界の業務は遂行が極めて困難になることが予想されるからである。


【理由の詳細】

当会代表の山田(以下「私」)の、デザイン業を生業としインターネット上の静止画を扱う実務者としての実例を掲げつつ、述べさせていただきます。
私は生業としてグッズやグラフィックなどのデザイン、アートディレクションを行なっており、業務によってはアパレルのジャンルにも及びます。
デザインには流行があります。デザインは流行を取り入れて行うシーンがあり、特にアパレルに関われば、そのシーズンの流行色や流行の様式(例えば「○○ルック」あるいは「○○年代風」といったような)を取り入れながら競うことになります。このことから解るように、デザインは、ある種のデザインに「寄せる」ことは宿命です。
とはいえ、他社様のものとあまりに近くなりすぎたり、完全に一致してしまうデザインについては権利侵害を含む問題があり、訴訟となり得ます。そういった事態が起こらないようにするためにも、他社様の商品画像をインターネット上からダウンロードして収集し、資料にすることはしばしばあります。そうした例に限らず、インターネット上の画像をダウンロードして資料にすることは、現在は、権利侵害を引き起こさず、なおかつ、業務を円滑に遂行するための、止むを得ない慣習となっております。
このように、業界内で認められている範囲での静止画のダウンロードであれば、商業上特段に問題にはなりません。問題が起こるとすれば、業界のこうした現場を知らない第三者が正義感に捉われ不必要な介入をしてきた時であるといえましょう。
インターネット上で、資料作成等のための静止画を探す際は、グーグルなどで「画像検索」して表示し、その中から取捨選択をしていきます。その中に、海賊版の画像があっても気がつかない場合もあります。こういった場合、対象となる画像が海賊版であるのを知らなかったとことの証明は、極めて困難になるのではないでしょうか。
したがって、法改正があれば、業務上必要に迫られて止むを得ずにインターネット上の静止画をダウンロードしたことにより、罪に問われるクリエイターが続出する結果となるのではないでしょうか。
業界の実務の現場を知らず理解しようともしない第三者は「招かれざる客」であるということです。


【まとめ】

報道では、インターネット上の静止画のダウンロード違法化については、来月にも具体的な制度設計に入る予定であるとのことです。これによって影響を受けるのは、私のようなデザインを生業とするクリエイティブ業界の人々であるのは明白でありますが、それに止まらないと考えます。クリエイターのみならず、他の業界の営業職の方もプレゼン資料を作成する機会があります。こうしたプレゼン資料にインターネット上の静止画を用いる例はあるのではないでしょうか。漫画海賊版サイトへの対策として始まったこの度の検討ですが、もはや、それを逸脱しており、資料を作る業務を伴う職種全体への影響は、免れないのではないかと考えます。
私のような立場の、連日、業務を遂行し現場で汗を流すクリエイターの元には、すでに、来月にも具体的な制度設計をする予定であるとのことは、報道があるまで全く伝わって来はしませんでした。私も、デザイナー、アートディレクターとして著作物を持つ身ですが、文化庁までもが、私のような立場の者をまさに軽んじ蔑ろにする態度です。我が国の文化を生み出してきたクリエイティブ業界の実務の現場を守りたいと願えばこそ、政府の的外れな法改正には反対する次第です。


以上

女子現代メディア文化研究会
代表 山田久美子


[注]

※注1:「海賊版漫画、ダウンロード違法に? 静止画も対象に、法改正検討」(10月30日 朝日新聞)
※注2:「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」(第6回)中間まとめ骨子(案)等に記述あり)
※注3:本年4月6日の毎日新聞の第一報、「政府(犯罪対策閣僚会議と知的財産戦略本部)がプロバイダ(ISP)に、「漫画村」等の海賊版サイトをブロッキングするよう要請する調整に入った」という記事


「静止画のダウンロード違法化に反対する声明」(PDF版426kb)