2019年4月2日火曜日

「児童売買、児童搾取および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書の履行におけるガイドライン案」に対する意見


【意見趣旨】


[意見の趣旨1]
61項について。「児童売買、児童搾取および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書」第2条(C)の定義を拡大し、「児童ポルノ」に素描や漫画による架空の児童の表現を含めることに反対します。
62 項について。法律で禁止する「児童への性的虐待素材」に非実在児童の表現を含めることに反対します。

[意見の趣旨2]
102 項について。性的被害を受けた実在の子どもたちを保護し援助する枠組み作りに賛成です。 そしてこの枠組みは、個人だけでなく、商業、政府、そして非政府組織によるあらゆる搾取から子どもを守らなければなりません。



【意見の理由】

[意見の趣旨1の理由]
( A)素描や漫画、その他で表現された架空の児童・非実在児童に対する性的虐待は、現実の人権侵害ではなく、児童の権利擁護としての意味がないからです。
( B)現在の日本の漫画には性的虐待やレイプを含む表現がありますが、それらは作家による想像の産物であり、実際に児童への性的虐待を行ってその行為を記録するようなとは違法です。漫画は架空の表現であるからこそ現実の児童の性的虐待を考える材料として用いることも可能です。こうした作品の禁止は、市民の考える機会を奪うものです。

[意見の趣旨2の理由]
(A)児童への性的虐待が随所で発生していることは確かであり、実在する被害児童の保護・救済は喫緊の課題だからです。そしてその加害者は、個人のみならずNGOや国連事業であることすらありえます。
( B)漫画等の架空の児童への性的虐待の取り締まりに尽力し、本来、保護・救済されるべき実在する児童を放置しないよう求めるからです。



【 背 景 】

[意見の趣旨1について]
私どもは、児童の権利擁護については大いに賛同します。しかしながら、「児童ポルノ」の定義に架空の児童の表現を含めること、法律で禁止する「児童への性的虐待素材」に非実在児童の表現を含めることについては反対します。
なぜなら、架空の児童・非実在児童には人権がなく、児童の権利擁護としての意味がないからです。
日本の漫画には、架空の児童・非実在児童への性的虐待やレイプの表現を含む作品があります。その中には、性的虐待の問題を考える上でのテクストとしての価値も持つ作品が含まれ、「風と木の詩」(竹宮惠子・作)、「BANANAFISH」(吉田秋生・作)等が該当します。「BANANA FISH」は昨年アニメーション化もされています。主人公の少年が「児童ポルノ」のビデオに出演している描写がありますが、その過去に苦しみながらも生きようとするという物語です。こうした作品が絶版となれば、児童が性的虐待の問題について考える機会を奪われることにもなり、「児童の権利に関する条約」において締結国に奨励している「児童が多様な情報源からの情報及び資料を利用し得ることを確保する」という条文にも反します。

[意見の趣旨2について]
児童の性的虐待被害が世界の多数の国で発生することは疑いがありません。しかし、その加害主体が常に分かりやすい悪人とは限られず、A/71/818 文書(http: //undocs. org/A/71/818)で示されるように、例えば国連職員が加害者であることすらありえます。
国連職員が加害の主体となる児童への性的虐待は、国連職員が立場を利用し、児童の弱い立場につけこんでいる点で、構造的な問題を含みます。権力者からの被害児童の保護という観点は重要であり、いかなる立場の人物からの性的虐待であっても被害児童が救済される相談窓口を早急に設け、たとえ加害者が政府要因や国連職員であっても児童の救済につなげられる枠組み作りを行う必要があります。
漫画等における架空の児童への性的虐待の取り締まりに尽力することの問題点は、そうした本来守るべき被害児童が放置され、本来救済されるべき実在する児童のために充てられるはずだった労力が奪われることでもあります。



【 結 論 】

この度のガイドライン草案における「児童ポルノ」の定義の拡大は、児童の権利擁護にとって意味がないばかりか、児童から失われる利益が大きく、児童の権利擁護の手段として妥当ではありません。そして、今や権威ある人々による児童への性的虐待こそが看過できない状況となっており、漫画等の架空の表現に責任を転嫁することなく、現実の人権侵害に向き合う必要があります。
どういった対象であれ、権利の保障を行う際には、その目的を達成する手段は確実な効果が見込まれ、なおかつ、それぞれの国の実情に適っていなければ意味がありません。
日本の、とりわけ漫画等の創作物については、しばしば「権利の保障」を目的とした、手段としては妥当とはいえない不当な規制を求められています(※補足資料)。しかし、日本の実情に合わせ不当な規制を行わないことこそが、我が国の児童の権利擁護につながると、私どもは考えております。


以上
女子現代メディア文化研究会代表 デザイナー・アートディレクター
山田久美子




[※補足資料]

「~国連女子差別撤廃委員会、「日本における女性の権利」保障~議題「性的暴力を描写したビデオや漫画の販売の禁止」についての意見書」
http://wmc-jpn.blogspot.com/2016/02/blog-post.html

※国連子どもの権利委員会に提出したパブリックコメントにはリンク先意見書の本文を掲載しましたが、当サイトでは同じ意見書を繰り返し掲載することとなりますので、ここでは割愛しURLのみ掲載いたします。



「児童売買、児童搾取および児童ポルノに関する子どもの権利条約の選択議定書の履行におけるガイドライン案」に対する意見(PDF版279KB)


Comments on “DRAFT Guidelines on the Implementation of the Optional Protocol to the Convention on the Rights of the Child on the Sale of Children, Child Prostitution, and Child Pornography”

The Arguments:

1. 
In Article 61, we oppose the stretched definition from Article 2 of OPSC, and also oppose including fictional child representations, such as drawings, cartoons, and written materials into the definition. 
In Article 62, we oppose labeling representations of non-existing children as child sexual abuse material and also oppose it by prohibitive legislation. 

2. 
In Article 102, we agree to protect and assist sexually victimized children. The framework must defend an existing child from any exploitational bodies, not only by individuals but also commercial, governmental, and non-governmental bodies.


Reasons for Arguments:

1-A) 
Drawings, cartoons, written materials, or any other forms of expression that does not directly 
infringe any existing individual human rights, even if depicting fictional children engaged in any fictional sexual activities. Banning imaginary representation is not equal to the protective action of human rights. 

1-B)
 It is a fact that there are several manga titles that depict sexual abuses and rapes, however, they are represented by the imagination of an author, without a record of existing child abuse, which is a criminal offense. Manga is a form of fictional representation, which provides this artform with the potential to represent materials to consider existing child sexual abuses. 

2-A) 
The inevitable truth is that child sexual abuse occurs in many places, and the protection and support of victimized children is our zero-tolerance task. It should also be noted that existing child molesters are not only nameless individuals but also NGO members and even UN staff. 

2-B) 
We request everyone to save and protect our children from existing harms, and we also request not to try to save imaginary non-existing children from fictional child abuse.


Background:

1. 
We strongly support the idea of protecting the human rights of all children. However, we oppose including fictional representations of children into the definition of "child pornography", and we also oppose including any non-existing childlike representation into the definition of "child sexual abuse materials". This is because fictional representations and non-existing childlike representations do not have individual or group human rights to be saved. 
There are manga titles which depict child sexual abuse and rape that are based on imagination and they are non-existing fictional children. Not a small number of these works, such as "Kaze to Ki no Uta" by Keiko Takemiya and "Banana Fish" by Akimi Yoshida, may have critical social value that considers what real sexual abuse is. 
Especially, "Banana Fish", which was adapted into a television series in 2018, and depicts the protagonist as a sex slave who is victimized during filming. Its story emphasizes the struggle to survive through his suffering. These narratives are also put in danger by the change and stretch of definition to this fictional area. It may also deprive the rights of children to think about and/or discuss sexual abuse problems and may also conflict with the Convention on the Rights of the Child, Article 17, which encourages international cooperation of cultural diversity. 

2. 
There is no doubt that child sexual abuse occurs all over the world. However, the perpetrators are not always typical criminals. According to A/71/818 (http://undocs.org/A/71/818) and related documents, even United Nations officers can be an exploitation body. The exploitation of children by socially powerful people is an abuse of power and these injustices reflect social and structural problems. The protection of exploited children from powerful people is critical. Children should be rescued from any sexual abuse, by any person, including all authorities. A protective framework for victimized children by any persons, such as government officers or UN officials is needed. 
Political control over the representation of fictional children and imaginary child abuses may be a distraction of attention to protecting victimized children and misuse of our efforts and resources which should be used to save our existing children.


Conclusion

    The extended definition of child pornography in the draft guidelines does not function for protecting the rights of existing children. Furthermore, it may deprive children of social benefit and is not reasonable for child rights protection. Considering the recent UN case above, where actual child sexual abuses were perpetrated by members of an international power, imaginary fiction is not appropriately placed by being at the front of these rights issues. It is critical to face real existing human rights violations without transferring responsibility to non-existing fictional expressions. 
    To guarantee any rights by the states, it does not matter who the targets are; all actions should be achievable, effective, and acceptable to all people of each country. Often, political action against manga and other imagination-based representations apply pressure to comply with unfair regulations that are camouflaged as "Rights Protection" (Appendix). Therefore, true rights protection must also apply to manga to eliminate the unfair suppression of imagination and to protect our children's rights. 

Sincerely, 


March 30, 2019 

Kumiko Yamada 
Representative Director of Women's Institute of Contemporary Media Culture/Designer/Art Director






2019年1月7日月曜日

文化庁著作権課にパブリックコメントを提出しました

文化庁著作権課からパブリックコメントの募集がありましたので(http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185001021&Mode=0)、インターネット上の静止画ダウンロード違法化案について白紙撤回を求める意見としてまとめ、本年1月5日に提出させていただきました。意見部分を掲載いたします。

なお、意見は2000字以内とのことでした。ライセンスビジネスに関わるクリエイターの実務の現状をお伝えするには、2000字では足りず、内容は圧縮せざるを得ませんでした。そのため、読みづらい部分もあろうかとは存じますが、恐れ入りますがご容赦いただけると幸いです。


【意見】

インターネット上の静止画ダウンロード違法化案は白紙に戻すべきである。
当会代表の山田は現役のデザイナー・アートディレクターである。専門分野は漫画・アニメ等のキャラクターグッズデザインで、ライセンスビジネスに関わる。この立場からの意見を申しあげる。
私どものビジネスはイメージを扱うのであって、イメージに傷がつくこと自体が損害である。したがって、罰則の有無に関わらず、第三者から違法行為の疑いをかけられるだけでもビジネス上の損失となり得る。
そうした中、私どものような立場の者が業務上必要に迫られ版権元の著作物を入手する例を、ビジネスの部外者が、正当性を欠く行為と区別できる確証がないことにより生じる問題がある。
私のような立場の者は、業務のため常に版権元の支給キャラクターイラストや背景画像等(専門的には「アート」と呼ばれる。以下「アート」と呼称。なおアートによっては漫画やコミックの書籍の画像そのものも含まれ、専門的には「コミックアート」と呼ばれる。以下「コミックアート」と呼称)を共有している。私どものビジネスで、あるプロジェクトでキャラクターグッズを作るという際には、製造工場に至るまでプロジェクトに関わる版権元以外のクリエイターや企業が、アートが配置された入稿(版下)データを含め、そのようにアートを共有する。そもそもライセンスビジネスには、版権元にライセンス料支払われメーカーがグッズを制作するビジネスモデルもある。
このように、ライセンスビジネス業界において版権元の企業は、制作会社や製造工場までを必ずしも傘下とせず外部の企業に頼っている現状がある。かつ、このビジネスに関わるクリエイターおよび企業には守秘義務が課せられるわけで、部外者はそのプロジェクトの内部を公開が許諾された僅かの範囲でしか知ることはない。
この状況で、ビジネスの部外者が、版権元以外の私どものような立場の者が共有する「コミックアート」について、海賊版の画像と区別をつけられるのか甚だ疑問である。
私は今、日本の弁護士が漫画海賊版サイトの運営者を特定するということを実現しているにもかかわらず、文化庁の資料のように「コンテンツの削除要請すらできない」と、エビデンスを無視し、思い込み激しく主張しているのを目の当たりにしている。他にも運営者特定を行う動きがあるわけで、そのような認識は大きな誤謬を含む。こうした例を鑑みた時、業務上正当な理由で支給された「コミックアート」について、捜査機関であれビジネスの部外者から漫画海賊版サイトの画像であるとの誹りを受ける可能性は免れず、第三者に違法行為をしていると言い騒がれてしまった場合には、イメージダウンが生じビジネスにとって大きな損害となる。
そして、ダウンロード違法化の対象とする静止画の範囲が拡大されるとなれば、企画書や商品カンプ制作を業務に含むクリエイティブ業界のビジネスは遂行が困難になることも考えられる。業務上止むを得ずインターネット上の静止画ををダウンロードしたとして、第三者に不正な行為をしているとの誹りを受ける可能性は免れないわけだが、だからといって、そうした画像のダウンロードなしでは、この業界の業務が成り立つわけもない。
デザインには流行がある。ある種のデザイン(例えば「マリンルック」のような一定の型)に「寄せる」ことは、そもそも宿命である。とはいえ、他社のものにあまりに寄せすぎないようにするためにも、同業他社の商品画像をインターネット上からダウンロードして収集し、資料にすることはしばしばある。これは、権利侵害を引き起こさず、かつ、業務を円滑に遂行するための止むを得ない慣習となっている。
また、グッズデザインに話を戻せば、アートのデータによっては色がCMYKかRGBで、PANTONE等の特色の指定がされておらず、グッズ製造に適さない状態となっているため、新たに特色指定をすることもある。ディズニー等のグッズ制作の歴史が長いキャラクターコンテンツのアートでは特色の指定がされているが、新しく参入してきた漫画やアニメのアートは、特色の指定がされていない例がまだまだある。こうした際、キャラクターの同一性保持のため同じキャラクターのグッズを制作する同業他社の商品で使用している色を参考にしなければならず、画像をダウンロードして収集し、特色指定の資料にすることもある。
以上のように、私どものようにライセンスビジネスに関わっていれば、コミックアートを共有し、インターネット上からダウンロードした画像を保有することになる例がある。業務遂行上、逃れようがない正当な行為ではあるが、同時に、不当な違法行為をしているとの誹りを受ける爆弾を抱えることにもなる。
したがって、すべての混乱の原因となるダウンロード違法化はせず、白紙撤回することを求める。

以上

女子現代メディア文化研究会
代表 山田久美子

2018年10月30日火曜日

静止画のダウンロード違法化に反対する声明


【はじめに】

本日10月30日に、文化庁が、インターネット上の静止画のダウンロードを違法化する著作権法改正のための検討を始めたとの報道がありました(※注1)。来月にも具体的な制度設計に入る予定とのことです。
この「静止画のダウンロード違法化」については、漫画海賊版サイトのブロッキング問題を扱う政府の会議においても、検討事項として掲げられて来ました(※注2)。
女子現代メディア文化研究会(以下「当会」)代表の山田は、現役のデザイナー、アートディレクターです。そうしたクリエイティブの現場に立つ者としても、この「静止画のダウンロード違法化」には予てより疑問を持っており、この度は、反対声明を発表させていただく運びといたしました。


【漫画海賊版サイトへの対策を巡る会議の経過について】

漫画海賊版サイトへの対策を巡っては、政府において会議が継続しております。対策案としてブロッキングを含むという本年4月の報道以降(※注3)は特に注視しておりますが、内容は法治国家の体を揺るがしかねない杜撰の極みとなっております。内閣府の会議では、委員の法律家等から非常に丁寧で解りやすい資料が、せっかく提出されているにもかかわらず、違法性阻却事由としての「緊急避難」を成立させる要件についての理解が進まないまま、一部の委員が感覚的な判断により結論を急ごうとしております。
本年10月には、日本の弁護士が漫画海賊版サイトの運営者を特定するということも実現しております。ブロッキングの他に実効的な手段が存在しないか事実上困難であるかどうかの検証対象としては、適していると考えて妥当でありそうなものですが、政府の会議の傍聴人からは、こうした取り組みが見過ごされたままであるとの証言も得ています。



【意見趣旨】

こうした政府の会議に付随し始まったとされる「静止画のダウンロード違法化」の検討なのだから、文化庁の会議もまた、立法を検討する会議であるにもかかわらず、感覚的な判断により結論を急ぐこととなりかねない。そうした面もふまえ、静止画のダウンロード違法化に反対する。


【意見の理由】

「海賊版だと知りながら」(静止画を)ダウンロードしたということの証明が可能であるかについても疑問がある中で、企画書や商品カンプ制作の際、業務上止むを得ず、インターネット上の画像をダウンロードし収集せざるを得ないシーンは、デザイン業を始めとしクリエイティブ業界においては尽きない現状となっており、「静止画のダウンロード違法化」となればクリエイティブ業界の業務は遂行が極めて困難になることが予想されるからである。


【理由の詳細】

当会代表の山田(以下「私」)の、デザイン業を生業としインターネット上の静止画を扱う実務者としての実例を掲げつつ、述べさせていただきます。
私は生業としてグッズやグラフィックなどのデザイン、アートディレクションを行なっており、業務によってはアパレルのジャンルにも及びます。
デザインには流行があります。デザインは流行を取り入れて行うシーンがあり、特にアパレルに関われば、そのシーズンの流行色や流行の様式(例えば「○○ルック」あるいは「○○年代風」といったような)を取り入れながら競うことになります。このことから解るように、デザインは、ある種のデザインに「寄せる」ことは宿命です。
とはいえ、他社様のものとあまりに近くなりすぎたり、完全に一致してしまうデザインについては権利侵害を含む問題があり、訴訟となり得ます。そういった事態が起こらないようにするためにも、他社様の商品画像をインターネット上からダウンロードして収集し、資料にすることはしばしばあります。そうした例に限らず、インターネット上の画像をダウンロードして資料にすることは、現在は、権利侵害を引き起こさず、なおかつ、業務を円滑に遂行するための、止むを得ない慣習となっております。
このように、業界内で認められている範囲での静止画のダウンロードであれば、商業上特段に問題にはなりません。問題が起こるとすれば、業界のこうした現場を知らない第三者が正義感に捉われ不必要な介入をしてきた時であるといえましょう。
インターネット上で、資料作成等のための静止画を探す際は、グーグルなどで「画像検索」して表示し、その中から取捨選択をしていきます。その中に、海賊版の画像があっても気がつかない場合もあります。こういった場合、対象となる画像が海賊版であるのを知らなかったとことの証明は、極めて困難になるのではないでしょうか。
したがって、法改正があれば、業務上必要に迫られて止むを得ずにインターネット上の静止画をダウンロードしたことにより、罪に問われるクリエイターが続出する結果となるのではないでしょうか。
業界の実務の現場を知らず理解しようともしない第三者は「招かれざる客」であるということです。


【まとめ】

報道では、インターネット上の静止画のダウンロード違法化については、来月にも具体的な制度設計に入る予定であるとのことです。これによって影響を受けるのは、私のようなデザインを生業とするクリエイティブ業界の人々であるのは明白でありますが、それに止まらないと考えます。クリエイターのみならず、他の業界の営業職の方もプレゼン資料を作成する機会があります。こうしたプレゼン資料にインターネット上の静止画を用いる例はあるのではないでしょうか。漫画海賊版サイトへの対策として始まったこの度の検討ですが、もはや、それを逸脱しており、資料を作る業務を伴う職種全体への影響は、免れないのではないかと考えます。
私のような立場の、連日、業務を遂行し現場で汗を流すクリエイターの元には、すでに、来月にも具体的な制度設計をする予定であるとのことは、報道があるまで全く伝わって来はしませんでした。私も、デザイナー、アートディレクターとして著作物を持つ身ですが、文化庁までもが、私のような立場の者をまさに軽んじ蔑ろにする態度です。我が国の文化を生み出してきたクリエイティブ業界の実務の現場を守りたいと願えばこそ、政府の的外れな法改正には反対する次第です。


以上

女子現代メディア文化研究会
代表 山田久美子


[注]

※注1:「海賊版漫画、ダウンロード違法に? 静止画も対象に、法改正検討」(10月30日 朝日新聞)
※注2:「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」(第6回)中間まとめ骨子(案)等に記述あり)
※注3:本年4月6日の毎日新聞の第一報、「政府(犯罪対策閣僚会議と知的財産戦略本部)がプロバイダ(ISP)に、「漫画村」等の海賊版サイトをブロッキングするよう要請する調整に入った」という記事


「静止画のダウンロード違法化に反対する声明」(PDF版426kb)

2018年3月19日月曜日

「迷惑防止条例」改正案に反対する意見書


【はじめに】

本年2月21日からの東京都議会定例会に、警視庁から、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(以下「迷惑防止条例」)改正案が提出されました。この条例案は3月22日採決、3月末の本会議で成立の見通しとなっています。
この度の「迷惑防止条例」改正案においては、つきまとい行為における「行為類型」の追加や、つきまとい行為における罰則の強化が含まれております。これらには、表現の自由に関わり民主主義の根幹を揺るがしかねない内容も含まれており、看過しがたいと考えます。
「迷惑防止条例」を作成した目的は、本来、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もつて都民生活の平穏を保持すること」(第1条)です。この度の「迷惑防止条例」改正案は、そうした目的から逸脱した内容となっているのではないかという危惧があります。
つきましては、この度の「迷惑防止条例」改正案に反対し、意見を述べさせていただきたく存じます。



【意見趣旨】

以下に述べる意見から、この度の「迷惑防止条例」改正案について、廃案を求める。

[ 意見1 ]
「条例案の概要」(※1)、「3 つきまとい行為等の行為類型の追加(第5条の2)」の、「(1) 規制対象となる行為類型の追加」おいて、内、「名誉を害する事項を告げること」は、追加の必要なし。

[ 意見2 ]
「条例案の概要」、「3 つきまとい行為等の行為類型の追加(第5条の2)」の、「(1) 規制対象となる行為類型の追加」おいて、内、「性的羞恥心を害する事項を告げること」は、追加の必要なし。

[ 意見3 ]
「条例案の概要」、「3 つきまとい行為等の行為類型の追加(第5条の2)」の、「(2)行為類型の一部追加」おいて、内、現行の1号の規定に加え、「みだりにうろつくこと」は、追加の必要なし。

[ 意見4 ]
「条例案の概要」、「3 つきまとい行為等の行為類型の追加(第5条の2)」の、「(2) 行為類型の一部追加」おいて、内、現行の3号(連続電話等)の規定に加え、「SNS等への連続送信」は、追加の必要なし。

[ 意見5 ]
「罰則(第8条関係)」は慎重な検証が必要。



【意見趣旨の理由】

[(1)について]
「名誉を害する事項を告げること」は刑法上の「名誉毀損罪」での取り締まりが充分可能であり、あえて「迷惑防止条例」の取り締まり対象に加える必要がないからです。
また、「名誉毀損罪」は親告罪で告訴がなければ処罰ができない一方で、「迷惑防止条例」は非親告罪であり、捜査機関の判断で逮捕や処罰が可能となります。「名誉を害する」とする事柄について恣意的な解釈が可能であり、条例の運用によっては濫用につながる恐れがあることも理由です。

[(2)について]
迷惑防止条例が非親告罪であるという中で、「性的羞恥心を害する事項」という文言については主観性に頼らざるを得ず、捜査機関の主観的かつ一方的な解釈が可能であり、条例の運用によっては濫用につながる恐れがあるからです。

[(3)について]
「みだりにうろつく」という曖昧な文言の捜査機関による恣意的な判断により、議員の方の選挙に関わる活動やビラ配りをはじめとし、政治に関わるあらゆる活動、デモ等が、取り締まり対象とされる恐れがあるからです。

[(4)について]
SNSの場合、例えばツイッターに連続投稿をした内容について、第5条の2で禁止される「正当な理由なく、専ら、特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的」での行為に何が該当するのか判断するのは捜査機関であり、条例の恣意的な運用が可能になるからです。
また、不特定多数の対象に向かってSNSで発信する行為と、特定の人物に対し(拒まれたにも関わらず)連続電話を行うという行為は、コミュニケーションの質的な隔たりがあり、迷惑防止条例上の同列の迷惑行為として扱うことに、甚だ疑問が残ります。

[(5)について]
罪に対し適切な罰則であるか否かの検証は必要である一方、罰則を強めることによって必ずしも犯罪が減少することにはならないわけで、罰則の強化については識者を交えた慎重な検証や議論が必要で、拙速な判断は避けるべきだからです。



【  結 論  】

このように、この度の「迷惑防止条例」改正案につきましては、表現の自由に関わる内容が含まれており、しかも、「名誉毀損罪」と同様の内容を含みながら、刑法上の「名誉毀損罪」では親告罪、他方の「迷惑防止条例」では非親告罪といった、制度的に大きな誤謬を含みます。
まして、選挙や政治活動に関わる活動について、捜査権の濫用によって不当に規制がなされる恐れがあっては、我が国の先人達が歴史を重ねてせっかく得て来た民主主義にとっても脅威となります。
念のため言えば、3月19日現在、この度の「迷惑防止条例」改正案は、警視庁のWebサイトにて「条例案の概要」のみが拝見できるだけで、完全に条文化された改正案として公開がされているわけでもありません。都民によって条文の厳密な文言の確認ができる状態にもなく、それにもかかわらず3月末の条例成立を目指しているとなれば、本来必要であったはずの都民による条例の理解・議論が充分にできているとは言いがたく、あまりに拙速と判断せざるを得ません。
したがって、表現の自由の観点、また、民主主義の健全な発展を願う立場から、この度の「迷惑防止条例」改正案につきましては、廃案としていただきたく存じます。


以上

女子現代メディア文化研究会
代表 山田久美子



[注]
※1:「条例案の概要」(http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kurashi/higai/meibou_comment.files/meibou_an.pdf)
 
・「「迷惑防止条例」改正案に反対する意見書 」(PDF版256kb)

※誤字修正しました。失礼いたしました。
「意見の理由」の「(5)について」中、「検証や議論を」→「検証や議論が」(3月28日)
 末尾文責部分「山田久美子以上」→「山田久美子(3月28日)

2018年2月26日月曜日

意見書について千葉市からご回答をいただきました

本年1月15日に、千葉市宛にお送りしました私どもの意見書について、千葉市こども未来局こども未来部健全育成課(以下「同課」)から、2月9日にメールにてご回答をいただくことができましたのでお知らせいたします。
なお、私どもが千葉市に送らせていただいた意見書は、「千葉市の市内コンビニエンスストア店舗の自主規制に関する「事業」について、廃止を求める意見書」です。

まず、意見書にご回答をいただけましたことについて、千葉市のこの度のご対応に感謝申しあげます。

ご回答の内容について要約すると次のようになります。
  • 同課としては、事業の内容、経過ともに適切であると考えている
  • ミニストップ株式会社と千葉市長の共同記者会見は、同社から依頼を受けて開催した
  • 平成29年度予算における同事業の事業費は、執行の見込みがないことから不用額として決算に計上する予定であり、平成30年度は現在のところ取り組みの実施は考えていない
私どもがそもそもの問題とした、「事業」をとおしての、行政としての私企業への不適切な関わり方については、意見書で指摘したとおりで、私どもといたしましては不適切であったという考えに変わりはありません。
また、問題の根本には、「事業」は千葉市の立案で進められてきたのであって、千葉市が責任を負っているという部分があります。共同記者会見に限ったことではなく、こういった観点からの「事業」についての言及がなく、残念ながら自らの責任についてどれほど顧みられているのかは不明です。
一方、「成人向け雑誌」を包装する色付きフィルムなどのために使われる予定であった千葉市の税金は、不要額として決算に計上する予定とのことです。意見書で指摘しましたが、ミニストップ社の決定では、販売中止とする「成人向け雑誌」について、各自治体の条例の指定基準を用いることになりました。これにより、千葉市が進めてきた「事業」上で、規制対象となる図書の指定基準に、全国の各自治体の条例の基準を用いる結果となってしまったわけで、宙に浮く形となった税金の使い道についても疑問を呈しておりました。しかしながら、これについては平成30年度の取り組みの実施は見送られる予定とのことで、少なくとも平成30年度中は、従うべき千葉市の条例を逸脱し、千葉市の税金が使われるという運用は免れることになったようです。

ご回答いただいた千葉市の誠意に感謝申しあげつつ、 今後も、千葉市の取り組みについては、注視していきたいと考えております。



以上

女子現代メディア文化研究会
代表 山田久美子

2018年1月15日月曜日

千葉市の市内コンビニエンスストア店舗の自主規制に関する「事業」について、廃止を求める意見書

【はじめに】

2016 年から千葉市の立案により進められてきた、千葉市内のコンビニエンスストアの自主規制に関する「事業」(※注1)、及び、2017年11月21日に千葉市役所にて行われた記者会見につきまして、行政による私企業への不適切な介在があったと考えます。そこでこの度、私ども女子現代メディア文化研究会(以下「当会」)は、千葉市に意見書をお送りする運びといたしました。
2017年11月21日の記者会見によれば、イオングループ傘下のコンビニエンスストアのミニストップ株式会社(以下「ミニストップ社」)が「成人向け雑誌」の販売中止を決めたとのことです。この記者会見は、千葉市役所にて、ミニストップ社藤本明裕社長と千葉市の熊谷俊人市長が同席して行われました。
これに先立っては、千葉市の立案による「事業」の構想がありました。その「事業」内容は、千葉市内のコンビニエンスストアの店舗で販売する「成人向け雑誌」を、市が定めた色付きフィルムで包装して陳列するという自主規制を進めるものです。この「事業」に関して千葉市からは既に税金から予算がついています。
このような、「事業」の構想から記者会見にいたるまでの千葉市の行政としてのあり方は、民主主義の根幹である憲法第21条「表現の自由」をすれば罷り通ることではありません。
各種クリエイターが活動する産業の裾野は、「表現の自由」が守られていてこそ成り立ちます。そしてこの産業は、男女雇用機会均等法が施行される以前から、女性の諸先輩方が自らの努力を積み重ねて押し広げて来た女性が活躍できる場でもあります。そこで、当会代表の山田も女性のデザイナーとして、やむなくお騒がせする運びとなった次第です。


【意見趣旨】

千葉市立案の市内コンビニエンスストア店舗の自主規制に関する「事業」について廃止を求める。


【意見の理由】

[ 理由1 ]
千葉市は、市内コンビニエンスストアの自主規制に関する「事業」の実現を模索し、この「事業」上で、この度の決定、すなわち、ミニストップ社の「成人向け雑誌」の販売中止にいたったが、まずこの「事業」の構想こそ「表現の自由」に関わる問題を含んでいたと考えるからである。

[ 理由2 ]
「表現の自由」の観点からは、ミニストップ社の自主規制を発表するこの度の記者会見には、行政による私企業への不適切な介在があったと言わざるを得ず、この不適切な記者会見を招いた発端は、千葉市の市内コンビニエンスストアの自主規制に関する「事業」にあるからである。
なお、この度の記者会見が、行政の私企業への関わり方として不適切であると考えたのは、次の点による。すなわち、ミニストップ社で販売する図書類の自主規制に関わる場への、以下に見られる千葉市の介在について問題があると考えた。
  (ア)この度の自主規制を発表する記者会見の場が千葉市役所である。
  (イ)千葉市の熊谷俊人市長が同席している。

[ 理由3 ]
この度の決定を発端に、ミニストップ社およびコンビニエンスストア各社やその流通に関わる各種クリエイターの表現の萎縮を招く恐れがあるからである。


【意見の詳細】


[理由1・2についての詳細]
私企業が、ブランディングの過程において店舗で販売する商品としての図書を選ぶ、また、自主規制として、ある種類の図書について販売「する・しない」の選別を行うのは、基本的には認められる経営上の自由です(※注2)。とはいえ、この度のように、ある種類の表現物の発表の機会に関わる場で、行政が「事業」と称して私企業側と直接の対面を繰り返したことについては、「表現の自由」に関わる問題を含んでいたと考えます。実際に、当初予定した以上に過剰な自主規制が生まれてしまいました。
千葉市による当初の「事業」の構想は、市内コンビニエンスストアの店舗で販売する「成人向け雑誌」を、市が定めた色付きフィルムで包装して陳列するという自主規制を進める内容でした。しかし、この「事業」の実現を模索した結果、ミニストップ社のみならず、イオングループすべての全国小売店およそ7,000店が「成人向け雑誌」の販売中止を決定する運びとなりました。この度のミニストップ社およびイオングループの決定は、千葉市が「事業」と称し行政として私企業に不適切に関わってしまった結果、抑圧が生まれ、過剰な自主規制となってしまった例と言えます。
行政は強制力を持っています。法律や条例等に基づいて行使されるとはいえ、適切なプロセスを経て力を行使するのでなければ、私企業は行政に対しあまりに立場が弱いです。したがって、行政が私企業に直接に関わる場面によっては、行政が意図しない部分まで抑圧が生まれる例もあります。この度の例も、それに漏れません。
市内コンビニエンスストアで行う図書の自主規制について、行政が直接にコンビニエンスストア側の担当者に繰り返し対面し模索してきた「事業」ということで、コンビニエンスストア側にとってみれば行政からの抑圧感が生じていた部分はあろうかと存じます。そもそも、この「事業」を進めようと試みるなど、行政として守るべき則を超えていたのではないかということです。
今後危惧されるのは、コンビニエンスストアチェーン各社に対する抑圧です。こうした抑圧が生まれれば、一地方自治体である千葉市のみの問題とはならず、全国のコンビニ各社やその流通に関わる各種クリエイターなどにとっての問題となります。既にイオングループが、すべての全国小売店での自主規制を決めており、各種クリエイターにとっても影響は免れないと危惧をしております。
そして、この「事業」上での決定ではありますが、ミニストップ社のこのような自主規制を発表する記者会見の場が市役所で、同社藤本社長と共に熊谷市長の同席がありました。私企業の経営方針を公表する記者会見が、市役所という行政機関の庁舎で、市長という行政の長と同席して行われ、しかも、その内容が、販売図書の取り扱いの自主規制という、表現物の発表の機会に関わるものであることからすれば、このような会見は、公権力による私企業の経営の自由への介入、さらには出版社等の表現の自由への抑圧を疑われざるを得ない不適切なものです。
行政は私企業の自主決定からは注意深く距離を置くべきで、このような記者会見があってはなりませんでした。
しかし、このような記者会見を招いた発端こそ、先立って模索されて来た千葉市の「事業」にありました。そもそもこうした「事業」を進めようと試みたことが、過ちだったのではないでしょうか。
このように、私企業の自主規制にこの度のような手法で行政が介在すれば、実質的には行政が表現行為に先立って表現に影響を及ぼしてしまうということになりかねないのです。行政は、社会においてどのような権限を持っているかを自覚し、中立すべきところでは中立しその則を超えてはなりません。今すぐにでも、この「事業」を廃止するべきです。

[理由3についての詳細]
記者会見同日、ミニストップ社からは「ミニストップ千葉市店舗および全店における成人誌取り扱い中止について」が公表され、取り扱い中止とする「成人向け雑誌」(※注3)の定義もなされましたが、これは複雑な内容となっています。特に「類似する雑誌類」(※注4)の範疇はどこまで及ぶものとするのかということについて疑問が残り、説明を要します。しかしながら、ミニストップ社からは補足説明はなく、販売中止とする「成人向け雑誌」の定義について曖昧性が払拭されないままです。
しかも、この度の決定は、千葉市が立案し模索してきた、市内コンビニエンスストアの自主規制に関わる「事業」上での決定です(※注5)。この点につきましては、条例に関わる千葉市の行政としての立場上の問題も、疑問として残ります。
「成人向け雑誌」は「(社)日本フランチャイズチェーン協会の自主基準(ガイドライン)より抜粋」し、下の2 項と定義がされましたが、このガイドラインの「類似する雑誌類」の範疇は複雑に広がっています。
以下が定義された2 項です。
  1. 各都道府県の指定図書類及び出版倫理協議会の標示図書類は取り扱わない。 
  2. それ以外の雑誌については、各都道府県青少年保護育成条例で定められた未成年者(18 歳未満者)への 販売・閲覧等の禁止に該当する雑誌及びそれらに類似する雑誌類を「成人誌」と呼称する。
各自治体の条例は異なるので、図書指定の方法や内容もまた異なります。よって、「2」で言う「類似する雑誌類」は各自治体の規定を網羅すれば幅広くなります。ミニストップ社としては「成人向け雑誌」といえば、いわゆる「ポルノ本」といった類いの図書類を想定していたのかもしれませんし(※注6)、千葉市の元々の「事業」の構想においても「成人誌」が問題視されていました。ところが、各自治体によっては、春画特集の芸術誌やヤクザをモチーフとした漫画の指定も行われており、その「類似する雑誌類」となれば、いわゆる「ポルノ本」の類いの雑誌では収まらなくなるという疑問があります。
しかしながら、これについての補足説明はありません。このような複雑で明確ではない規制対象の定義では、ミニストップ社およびコンビニエンスストア各社やその流通に関わる各種クリエイターなどの表現の萎縮を招く恐れがあります。
しかも、次のような問題もあります。千葉市が行うこのような「事業」が、従うべき千葉県の条例から、もはや逸脱しているのではないかということです。千葉市は立案した「事業」の実現を模索をした結果、千葉市の「事業」上の決定としての、ミニストップ社の「成人向け雑誌」の販売中止の決定に辿り着きました。千葉市が進めている「事業」の規制対象は、全国の各自治体の条例を指定基準とすることになってしまいました。千葉市は千葉県の条例に基づいて有害図書指定を行い規制を行うはずで、なおかつそうするべきですが、規制対象は、もはや千葉県の条例の基準からかけ離れています。
既にこの「事業」についている予算(※注7)がありますが、今後どう消化するのかという問題もあります。千葉県の条例の基準から逸脱し、全国の各自治体の条例を指定基準とする規制の「事業」に、もし、何らかの場面でこの予算を使うとなっては、矛盾が生じようかと考えます。千葉市の税金について、千葉市が従うべき千葉市および千葉県の条例を逸脱した運用をしては、千葉市民、千葉県民にとっての税制上の問題も生じようかというものです。
このように、千葉市のコンビニエンスストアに関わる自主規制の「事業」は、各種クリエイターの表現の萎縮を招く恐れがあるばかりではなく、適切とは言えないプロセスで行政が行われているのではないかという疑いもあります。このような不透明、不明瞭な行政が許されては、各種クリエイターが活躍する場が荒廃させられるばかりではなく、我が国の民主主義の制度そのものが脅かされかねません。


【 補 論 】

この度の件で思い出されたのが、1938 年の内務省図書課による「児童読物改善ニ関スル指示要綱」の発表、いわゆる「内務省通達」です。これは「子どものため」「健全育成のため」という目的で、児童書や漫画や赤本において、「俗悪」とされる卑猥な表現や華美な表現がされることがないよう、内務省から編集者に指示が行われたものです。
「内務省通達」は「子どもの健全育成」という目的で始まりながら、当時の雑誌や書籍等のメディアにおける表現に、間接的にあるいは直接的に影響を及ぼしました。歴史を振り返れば、終いには、当時人気だった「くるくるクルミちゃん」で知られる松本かつぢ氏、また女性の華やかなイラストで知られる中原淳一氏などが、連載誌での連載中止に追い込まれ(※注8)、第二次世界大戦が終わるまでは活躍の場の制限を余儀なくされました。
「内務省通達」は、「子どもの健全育成のため」という目的が結果として見事に裏切られた例です。子どもが楽しめる作品は、子どもの手が届かないところへ行き、その表現者は活躍の場を失うこととなりました。
こうした歴史を鑑みれば、正しい目的があったとしても、その目的を実現する方法は慎重に吟味しなければならないということが解ります。その方法を間違えば、各種クリエイターの活動の場、ひいては文化を生み出す裾野が荒廃させられてしまいます。


【 結 論 】

以上から、千葉市におかれては、千葉市の立案によるコンビニエンスストアの自主規制に関わる「事業」の構想からこの度の記者会見にいたるまで、行政として守るべき則を超えており不適切であったと断言します。この「事業」には、我が国の文化を支えるクリエイターにとってもデメリット以外はないわけで、廃止が待たれます。
この度の「事業」は、行政によって、私企業の過剰な自主規制として帰結しました。これは、将来に渡っても、実質的には公権力が表現行為に先立って表現に影響を及ぼすことになる可能性があり、事前抑制の疑いがあります。「表現の自由」を保障する憲法第21条の観点からも脅威であるのはもちろんのこと、クリエイターが活躍する産業の裾野が踏み荒らされ、ひいては女性の活躍の場をも狭められる危険性を内包しており、看過することはできません。
「表現の自由」は、民主主義の根幹です。未来に渡り健全な民主主義が続くことを願えばこそ、その脅威となる行政のあり方を改めていただきたいと、私どもは求める次第です。我が国の文化の裾野を守り、そして、我が国の女性の諸先輩方の努力を無にしないということを決意しながら、結びの言葉とさせていただきます。

以上

女子現代メディア文化研究会
代表 山田久美子


[ 注 ]
(※注1) 「事業」の構想とは、千葉市の立案によるコンビニエンスストアに関する自主規制の取り組み。千葉市内のコンビニエンスストアの店舗にて、「成人向け雑誌」を市が定めた色付きフィルムで包装するという内容。大阪府堺市のファミリーマートでは同様の取り組みを2016 年から実施している。千葉市のこの「事業」には既に39万円の予算がついているとのこと。
(※注2) ただし、私企業とはいえ取り扱う商品が流通において寡占状態にある場合には問題が生まれもするが、このような問題を言及する機会は別に譲る。この度は、図書を発表する機会に関わる場面で、行政が私企業に直接関わることの問題点を扱うからである。
(※注3) 「ミニストップ千葉市店舗および全店における成人誌取り扱い中止について」において「成人誌」は「(社)日本フランチャイズチェーン協会の自主基準(ガイドライン)より抜粋」し次のように定義している。

  1. 各都道府県の指定図書類及び出版倫理協議会の表示図書類は取り扱わない。
  2. それ以外の雑誌については、各都道府県青少年保護育成条例で定められた未成年者(18 歳未満者) への販売・閲覧等の禁止に該当する雑誌及びそれらに類似する雑誌類を「成人誌」と呼称する。(https://www.ministop.co.jp/corporate/release/assets/pdf/20171121_10.pdf)
(※注4) 「類似する雑誌類」は、いわゆる「類似図書類」。
(※注5) 「青少年健全育成条例などの情報公開の置き場」(http://koukai.sblo.jp/article/181889999.html)にて、市民により情報公開請求によって千葉市から公開された書類からは、千葉市が「事業」として、市内コンビニエンスストアの自主規制を立案して進めていたことがわかる。
(※注6) 「青少年健全育成条例などの情報公開の置き場」(http://koukai.sblo.jp/article/181889999.html)にて、千葉市青少年問題協議会の議事録でも「ポルノ雑誌」の言及がメインとなっている。
(※注7) 当初は「成人向け雑誌」を包装する色付きフィルムなどのために税金を使う予定だった。
(http://koukai.sblo.jp/article/181889999.html)
(※注8) 中原淳一氏は連載誌「少女の友」で人気を博したが、1940 年に内務省の命令で同誌を降板。松本かつぢ氏もまた「少女の友」で人気連載だった「くるくるクルミちゃん」が、内務省通達の影響で表現内容の変質を迫られた後に、1940 年に連載を終了した。
(http://www.museum.or.jp/modules/im_event/?controller=event_dtl&input%5Bid%5D=60083)
(http://katsudi.com/mangahistory/)


・「千葉市の市内コンビニエンスストア店舗の自主規制に関する「事業」について、廃止を求める意見書」(PDF版350KB)