現代美術は往々にして社会に問題提起をします。森美術館におけるこの度の会田誠氏の展覧会、「会田誠展:天才でごめんなさい」をめぐり賛否両論含む議論が生まれたことについては、現代美術の展覧会としての観点からは有意義であったといえます。
作品への感想や意見は、否定的な内容も含め大いに語られると良いでしょう。しかしながら作品の撤去要請については、私ども女子現代メディア文化研究会は抗議いたします。撤去要請は表現の機会を否定することになります。これは表現をする事前の抑制につながり、「表現の自由」が保障されるべき近代国家にあっては、軽々に認められないことです。
もちろん、制作過程に現実の人物に対する虐待が含まれる作品の場合、厳しい取り締まりが必要です。しかし問題とされた「犬」シリーズについていえば、描かれている少女たちは実在しない人物であり、この作品の制作過程においては人権侵害はありません。
また、森美術館による会田誠氏の作品の展示は我が国の法に則っているわけで、その限り、何ら作品を撤去する必然性はありません。しかも、一部の作品についてはゾーニングを施しており、森美術館は極めて慎重な展示をしていることがうかがえます。
会田誠氏の作品が女性差別を推進しているという主張、作品の撤去要請はこれに基づいているようです。しかし、この主張は女性全体の意見を代表しているわけではありません。少なくとも、私ども女子現代メディア文化研究会の意見とは異なります。むしろこうした女性差別撤廃を声高に叫びながらの作品の撤去要請が、女性を含む国民の「知る権利」を侵害し、結果として一国民としての女性が享有する権利までも侵害すると考えております。
また、作品の撤去要請は、「女性はこのように描かなければならない」といった表現への誘導となります。作品を発表する機会を奪う要請は、創作物で描かれる女性の像を限定する圧力となります。このような圧力は女性を含む表現者の表現に過剰に介入するとともに、創作物で描かれる女性の像の多様性を失わせることにもつながります。
作品の撤去要請などという誤った方法に頼っては、結果的に一国民としての女性の権利をむしろ侵害し、ひいては、女性の表現者が現在にわたり積みあげてきた文化遺産を破壊することになると、私ども女子現代メディア文化研究会は危惧しております。
誰しもが意見を表明できるのは「表現の自由」が保障されているからこそです。この度の森美術館への作品撤去要請はそれを否定するものです。「表現の自由」は近代国家にあって、国民が享有している権利であることを忘れてはなりません。たとえ相手の意見が自らの意見と異なっていても、その意見を表明する権利は絶対に奪ってはならないのです。
女子現代メディア文化研究会共同代表
山田久美子/AngelVibes