なお、意見は2000字以内とのことでした。ライセンスビジネスに関わるクリエイターの実務の現状をお伝えするには、2000字では足りず、内容は圧縮せざるを得ませんでした。そのため、読みづらい部分もあろうかとは存じますが、恐れ入りますがご容赦いただけると幸いです。
【意見】
インターネット上の静止画ダウンロード違法化案は白紙に戻すべきである。
当会代表の山田は現役のデザイナー・アートディレクターである。専門分野は漫画・アニメ等のキャラクターグッズデザインで、ライセンスビジネスに関わる。この立場からの意見を申しあげる。
私どものビジネスはイメージを扱うのであって、イメージに傷がつくこと自体が損害である。したがって、罰則の有無に関わらず、第三者から違法行為の疑いをかけられるだけでもビジネス上の損失となり得る。
そうした中、私どものような立場の者が業務上必要に迫られ版権元の著作物を入手する例を、ビジネスの部外者が、正当性を欠く行為と区別できる確証がないことにより生じる問題がある。
私のような立場の者は、業務のため常に版権元の支給キャラクターイラストや背景画像等(専門的には「アート」と呼ばれる。以下「アート」と呼称。なおアートによっては漫画やコミックの書籍の画像そのものも含まれ、専門的には「コミックアート」と呼ばれる。以下「コミックアート」と呼称)を共有している。私どものビジネスで、あるプロジェクトでキャラクターグッズを作るという際には、製造工場に至るまでプロジェクトに関わる版権元以外のクリエイターや企業が、アートが配置された入稿(版下)データを含め、そのようにアートを共有する。そもそもライセンスビジネスには、版権元にライセンス料支払われメーカーがグッズを制作するビジネスモデルもある。
このように、ライセンスビジネス業界において版権元の企業は、制作会社や製造工場までを必ずしも傘下とせず外部の企業に頼っている現状がある。かつ、このビジネスに関わるクリエイターおよび企業には守秘義務が課せられるわけで、部外者はそのプロジェクトの内部を公開が許諾された僅かの範囲でしか知ることはない。
この状況で、ビジネスの部外者が、版権元以外の私どものような立場の者が共有する「コミックアート」について、海賊版の画像と区別をつけられるのか甚だ疑問である。
私は今、日本の弁護士が漫画海賊版サイトの運営者を特定するということを実現しているにもかかわらず、文化庁の資料のように「コンテンツの削除要請すらできない」と、エビデンスを無視し、思い込み激しく主張しているのを目の当たりにしている。他にも運営者特定を行う動きがあるわけで、そのような認識は大きな誤謬を含む。こうした例を鑑みた時、業務上正当な理由で支給された「コミックアート」について、捜査機関であれビジネスの部外者から漫画海賊版サイトの画像であるとの誹りを受ける可能性は免れず、第三者に違法行為をしていると言い騒がれてしまった場合には、イメージダウンが生じビジネスにとって大きな損害となる。
そして、ダウンロード違法化の対象とする静止画の範囲が拡大されるとなれば、企画書や商品カンプ制作を業務に含むクリエイティブ業界のビジネスは遂行が困難になることも考えられる。業務上止むを得ずインターネット上の静止画ををダウンロードしたとして、第三者に不正な行為をしているとの誹りを受ける可能性は免れないわけだが、だからといって、そうした画像のダウンロードなしでは、この業界の業務が成り立つわけもない。
デザインには流行がある。ある種のデザイン(例えば「マリンルック」のような一定の型)に「寄せる」ことは、そもそも宿命である。とはいえ、他社のものにあまりに寄せすぎないようにするためにも、同業他社の商品画像をインターネット上からダウンロードして収集し、資料にすることはしばしばある。これは、権利侵害を引き起こさず、かつ、業務を円滑に遂行するための止むを得ない慣習となっている。
また、グッズデザインに話を戻せば、アートのデータによっては色がCMYKかRGBで、PANTONE等の特色の指定がされておらず、グッズ製造に適さない状態となっているため、新たに特色指定をすることもある。ディズニー等のグッズ制作の歴史が長いキャラクターコンテンツのアートでは特色の指定がされているが、新しく参入してきた漫画やアニメのアートは、特色の指定がされていない例がまだまだある。こうした際、キャラクターの同一性保持のため同じキャラクターのグッズを制作する同業他社の商品で使用している色を参考にしなければならず、画像をダウンロードして収集し、特色指定の資料にすることもある。
以上のように、私どものようにライセンスビジネスに関わっていれば、コミックアートを共有し、インターネット上からダウンロードした画像を保有することになる例がある。業務遂行上、逃れようがない正当な行為ではあるが、同時に、不当な違法行為をしているとの誹りを受ける爆弾を抱えることにもなる。
したがって、すべての混乱の原因となるダウンロード違法化はせず、白紙撤回することを求める。
以上
女子現代メディア文化研究会
代表 山田久美子